大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡家庭裁判所 昭和42年(家イ)133号 審判 1967年8月17日

国籍 韓国 住所 盛岡市

申立人 李ヨシエこと山下ヨシエ(仮名)

国籍住所申立人に同じ

相手方 李慶玄こと山下三次(仮名)

主文

申立人と相手方との昭和二五年一二月四日岩手県紫波郡○○村長の受附にかかる届出による婚姻が無効であることを確認する。

理由

本件申立の要旨は、申立人はもと春田ヨシエと称し、岩手県紫波郡○○村大字○○第二地割一二九番地イ号(筆頭者春田正二)に本籍を有していた日本人であつたが、昭和二〇年一二月頃から韓国の国籍を有する相手方と内縁関係が生じ、両者間に昭和二四年八月二八日男信一が出生し、出生の届出によりその母申立人につき本籍前記○○村大字○○第二地割一二九番地イ号に新戸籍が編製され、昭和二四年一二月一五日そこから岩手県盛岡市○○○○六二番地に転籍した。そして昭和二五年一二月四日岩手県紫波郡○○村長に対し、申立人と相手方との婚姻の届出をし、同日受附けられ、申立人は日本の前記従前の戸籍から除籍された。また、相手方は昭和二五年一二月九日信一を認知する旨の届出をした。

ところで、相手方は申立人と婚姻する以前、すでに昭和二五年五月二五日韓国人金斗良と正式に婚姻していた。昭和四一年一二月頃相手方が盛岡市役所を通じ、永住許可申請をしたところ、仙台出入国管理局において、同許可申請審査中この事実が発見され、申立人と相手方との婚姻は重婚であるため当然無効であるとして申立人と前記信一につき外国人登録の無効措置がとられた。

もつとも、相手方と前記金斗良とは昭和四二年三月九日協議離婚し、その旨の申告がなされており、申立人と相手方とは今後も婚姻を継続する意思に変わりはないのであるが、外国人登録の方は申立人が日本国籍を有するとして登録無効の措置がとられ、日本人として取扱われているにかかわらず、戸籍上は依然として日本の戸籍から除籍されたままになつている。そこで、申立人と相手方との婚姻届出当時は重婚で、その婚姻は無効であるから申立人はその戸籍の訂正を求めるため、主文同旨の審判を求めるというにある。

よつて審案するに本件に関する当庁家事調停委員会の昭和四二年七月二四日午前九時の調停期日において、相手方はすべて申立人の主張どおりの事実を認め、当事者間に主文同旨の審判を受けることについて合意が成立し、申立人と相手方との昭和二五年一二月四日岩手県紫波郡○○村長受附の婚姻届出による婚姻は重婚であることにつき争いがない。本件記録の春田ヨシエの戸籍謄本、戸主季白山の韓国の戸籍謄本写(盛岡市長認証)季ヨシエおよび季慶玄の登録済証明書および当裁判所調査官の調査の結果を総合すると、前記申立の要旨に符号する事実を認めることができる。

婚姻の成立要件の準拠法は法例第一三条第一項により各当事者の本国法によるべきところ、重婚は日本民法では取消事由にすぎず、しかも前婚が離婚によつて解消すれば後婚には重婚としての瑕疵を帯有しなくなるため、もはやこれを取り消すことができなくなると解すべきであるが、相手方の本国たる韓国では、本件婚姻届出当時重婚を当然無効とする慣習があつた。このように、当事者双方の本国法の規定する婚姻の効力が異なる場合には、規定の厳格な方すなわち前記韓国の慣習法に従うべきであるから、本件当事者間の婚姻は無効であるといわなければならない。

当裁判所は、調停委員福田祐太郎、同安倍キミの意見を聴いた上、本件申立を正当と認め、家事審判法第二三条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡部行男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例